Achievement 2013
投球のモーション・シンセサイザー 〜Evidence Based Coaching〜
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このページでは、モーション・シンセサイザーのアウトラインについて説明していきます。
途中、もっと詳しい説明をみたいときは、
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ボタンをクリックしてください。
開発経緯






現場でよくある質問ですが、
「先生、ぼくの投球フォームをこんな風に変えたら、肩は痛くならないでしょうか」
「しかも球も速くしたいし、コントロールもよくしたいし、さらに・・・」
このように、現場のニーズは多種多様です。
こうした現場のさまざまなニーズに複合的に応えられるシステムを開発したいと考えました。


また、現場でよくある意見ですが、
「「体を開くな!」と口で言われてもよくわからないよ」
「指導のポイントをグラフで見せられてもよくわからないよ」
「自分のパソコンで3D動画としてみたいけど・・・」」

こうしたさまざまな意見に対して、選手が理解しやすいシステムを開発し、
イメージトレーニングに役立てたいと考えました。


そこで開発したのが、「モーション・シンセサイザー」です。

このシステムでは、投球動作をモーションキャプチャーすることによって、パフォーマンスや関節傷害を予測し、関節傷害を防ぎつつパフォーマンスを高めていく動作をコンピュータ上でシミュレーションすることができます。

モーション・シンセサイザーの特徴



モーション・シンセサイザーの一番の特徴は、さまざまなニーズに複合的に応えられることにあります。
モーション・シンセサイザーでは
仮想のスライドバーを動かすことによって、さまざまなニーズを設定していきます。
この操作は、あたかもミュージック・シンセサイザーのスライドバーを動かすことに似ています。
ミュージック・シンセサイザーでは、スライドバーを動かすことによって、新しい「音」を作り出しますが、
モーション・シンセサイザーでは、スライドバーを動かすことによって、新しい「動き」を作り出します。

そして、設定したニーズに最も近い投球動作をコンピュータ上で作成し、
求められた投球動作を3D動画として閲覧できます。
こうして、イメージトレーニングに役立てていくのです。
注)3D動画の閲覧にはビューワー(無料)が必要です。

ニーズの設定について下記に詳しく述べます。
たとえば、
「教科書的なお手本のような投球動作をみたい。」という人もいれば
「自分にとってよりよい投球動作をみたい」というオーダーメイドなものを求める人もいるでしょう。

「ぼくは球速を高めたい」という人もいれば
「ぼくは球速よりも、球の伸びをよくしたい」という人もいるかと思います。

「コントロールをある程度保ちたい」という人もいれば
「障害は絶対に作りたくない」という人もいるかもしれません。

このシステムではこうしたさまざまなニーズに対して、複合的に応えていくことができます

モーション・シンセサイザーの仕組み




モーション・シンセサイザーは
@ データベース
A 主成分分析
B 最適化手法
の3つから成り立っています。


まず、データベースですが、
無症状の社会人野球選手と大学野球選手を対象に、
MRI撮影、投球動作のモーションキャプチャ、球速の測定、球の回転数と回転軸の計測コントロールの評価を行い、これらの情報をデータベース化しました。
現在のところ(2013.10)、データベース内の投球試技数は約400試技くらいです。



つぎに、このデータベースに主成分分析をかけていきます。
主成分分析をすることにより、データベース内の情報を統計学的に分類し、投球動作パターンを客観的に抽出します。
(主成分分析の特性上、各動作パターンは互いに独立しています。)
そして、この動作パターンとパフォーマンスや障害との関係を相関係数で表します。
上図でいえば、
第1主成分は球速に関与する動作パターン
第2主成分は障害に関与する動作パターン
第3主成分は障害と球速の両者に関与し、お互いに相反する動作パターン
と解釈することができます。

各主成分は線形代数的に合成することができます。

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主成分分析をすると、
データベースの情報と各主成分得点は固有ベクトル行列を用いて双方向性に計算できるようになります。この各主成分得点をスライドバーで表現します。
例えば、上図の場合
第1主成分得点と第2主成分得点のスライドバーを動かしていますが、
この場合、第1主成分と第2主成分を線形代数的に合成した新しいデータを作り出すことができます。
ここが、モーションシンセサイザーの心臓部になります。
このようにして、スライドバーをいろいろと操作することで、さまざまな動作パターンを作り出せ、そのときのパフォーマンスや障害を推定することができます。

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最後に、最適化手法を用いて、「よりよい動作」を求めていきます。
このシステムではさまざまなニーズを満たす動作をコンピュータ上で探索できます。
さきほどのスライドバーをコンピュータに片っ端から操作させていき、ニーズが最大になる投球動作と最小になる投球動作を探索します。
求められた動作で、「最小」→「最大」に向かう動作パターンの変化がニーズに密接に関係することを意味します。
つまり、この「最小」→「最大」に向かう動作パターンの変化こそが指導における重要ポイントになると考えられ、これを3D動画として閲覧できるようにしました。

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シミュレーション例1 (教科書的)




ここでは、大学生18名のデータをまるまる使って、教科書的な動作パターンを求めていきたいと思います。
大学生にとって、パフォーマンスを下げないという条件下で、肩関節に病変ができやすい投球動作パターンと病変ができにくい投球動作パターンを求めていきます。
上図でいうと、
パフォーマンスのスライドバーを固定した状態で、
障害のスライドバーをMAXにしたり、MINにしたりしていきます。
ニーズ設定後、モーション・シンセサイザーで新しい動作を生成します。




左上は最も病変ができやすくなる動作パターン、
右上は最も病変ができにくくなる動作パターンです。
下記の動画ボタンをクリックして、動画を見てください。

横からの視点
動画 最良動画 最悪

上からの視点
動画 最良動画 最悪

後ろからの視点
動画 最良動画 最悪

シミュレーション例2 (オーダーメイド)




今度は、データベースの中から、ある社会人野球選手1名のデータを取り出し、
「この選手にとってよりよい動作」
というオーダーメイドなシミュレーションをしてみたいと思います。

ある社会人野球選手Aさんが、上図のような注文をたくさんしてきたとします。
「このとき、あなたはどのような投球動作を指導しますか?」
といわれたら、みなさんきっと困るでしょう。

このシステムでは、次のように応えていきます。

まずは、ニーズを設定していきます。
球速と球の伸びをMAXに近づけていきます。
コントロールや障害については、
「今より下がらないように」
という制約条件をつけていきます。
ニーズ設定後、モーション・シンセサイザーで新しい動作を生成します。

各フェーズの静止画を下記に載せていきます。
軸足股関節-体幹の姿勢に着目してください。
(特にアーリーコッキングフェーズが重要です)

左はこの選手のオリジナルの投球動作です。コントロールと考えてください。
右はニーズを満たす動作で、コンピュータ上で作り出した投球動作です。









下記の動画ボタンをクリックして、動画を見てください。

後ろからの視点
動画 オリジナル動画 ニーズ最大

今後の展望




いままで、2つのシミュレーション例をお見せしましたが、
モーション・シンセサイザーではこの他にもさまざまなシミュレーションを行うことができます。
モーション・シンセサイザーは新しい解析技術です。
そのため、データベースはまだそれほど大きくなく、いわばうまれたばかりの赤ちゃんです。しかし、ふつうの赤ちゃんと違うのは
「抜群の解析脳力」
を持っていることです。
つまり、投球動作に関して高速で安定した解析が可能であり、その理論体系はほぼ確立しました。
今後は、さまざまな機関・業種の方々と協力してさまざまなデータを収集し、データベースを拡張していきたいです。
そう、
この赤ちゃんにデータを食べさせれば食べさせるほど、このシステムは成長し、そこから得られる知見の普遍性と信頼性は自動的に向上するようになっています。




モーション・シンセサイザーはさまざまなスポーツ、そしてさまざまな関節障害で応用することができます。
今後、多くの競技に応用していきたいと考えています。


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