前項でも述べたように、大学野球選手には無症候期から約半数以上の選手にMRI上の所見が見られます。。
こうした無症候期のMRI所見を発症に対して前向きに研究すると、上腕骨頭病変は発症に対する危険因子であることが明らかになりました。
無症候期に上腕骨頭病変がある人はない人と比べ20倍発症しやすいことがわかりました。
この上腕骨頭病変はインターナルインピンジメントによって生じると考えられていますから、こうした病変やメカニズムを改善するような投球フォーム開発が予防につながると考えられます。
すべての選手のMRI所見を重ねてプロットすると上腕骨頭病変の分布は特徴的な位置に存在しました。
こうした病変の予測や予防が投球動作からできないでしょうか?
本研究の目的は動力学解析と有限要素法解析を組み合わせて、投球動作中の応力分布をシミュレーションすることです。そして、この応力分布が実際のMRI所見の分布と合致するかどうかを検討しました。
こうしたことがうまくいくと投球動作から病変を予測することが可能となり、病変を予防していく投球フォーム開発につながっていくと考えられます。
対象は無症状の大学野球選手18名です。
投球動作のmotion captureとMRIの両方を施行しました。
まず筋骨格モデル(SIMM nac)を用いて動力学解析を行い、投球動作中の肩の関節間力を求めました。
肩の関節間力とは上腕骨セグメントが肩甲骨セグメントから受ける力と定義しています
次にMRI病変の有無によって2群にわけ、それぞれにおいて肩の関節間力の平均と標準偏差を求めました。
次に有限要素法モデルを構築しました。
これにはMechanical Finder(RCCM)を用いました。
CTから骨形状、MRIから軟骨・関節唇の形状を抽出し、ソフトウェア上で合体させました
関節包や腱板は複合体としてCGで作成しました。
有限要素法モデル上に動力学解析モデルと同じ座標系を構築しました。
肩甲骨側を拘束し、材料特性は以上のように設定し、上腕骨の姿勢は6自由度で変えられるようにモデルを作りました。
解析は弾性解析としました。
動力学解析で求めた最大外旋時の上腕骨の姿勢と肩関節間力の情報を有限要素法解析モデルに入力し、応力分布を求めました。
上段は病変あり群のシミュレーションされた応力分布です。
下段は病変なし群のシミュレーションされた応力分布です。
応力分布とMRIの病変分布は合致しました。
今回は動力学解析と有限要素法解析を組み合わせて応力解析をしましたが、このなかで特に重要な要素は投球動作中の肩関節間力です。
肩関節間力のデータを下に記載します。
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