現場でよくある質問ですが、
「伸びのあるボールを投げたいのですが、どのように動作を変えたらよいですか?」
「しかも球も速くしたいし、けがもしたくありません」
こうした現場のさまざまなニーズに対して、投球動作の診断と治療が両立できるシステムを開発したいと考えました。
球の伸びに関する研究ですが、
回転のあるボールと回転がないボールではボールの軌跡が異なってきます。
このとき選手は「球が伸びた」と感ずるわけですが、
これは球の回転によるマグヌス効果が生じているからと考えられています。
この球の「伸び」を球の「回転」から予測できるようになってきています。
一方、我々は投球障害肩の研究をしており、肩関節内のインピンジメントに着目しています。
最近我々は、投球動作から肩関節内のインピンジメントによって生じる接触力を推定できるようになってきました。
推定できる項目は
@ 接触力の大きさ
A 接触力の作用点
です。
@ 上腕骨頭-関節窩(赤矢印・赤線)
A 上腕骨頭-肩峰 (緑矢印・緑線)
の2つの接触力を求めてました。
そして、この接触力の時間積分値(力積)を用いて、上腕骨頭病変を予測できるロジスティック回帰式を算出しました。
これにより、投球動作をmotion-captureすることにより、上腕骨頭病変の存在を予測することができるようになりました。
この上腕骨頭病変はその後の発症に強く影響することがわかっていますので、この上腕骨頭病変の存在を予測することは、投球障害肩の発症を予測することにつながります。
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我々は、「High performanceとMinimum injury」を目指して、
球質に関する研究と障害に関する研究を統合した新しい投球動作シミュレーションシステムを開発することを試みました。
つまり、投球動作をmotion-captureすることによって、
投球動作から球質と障害の両方を予測し、障害を防ぎつつ球質を高められる投球動作をシミュレーションできるシステム開発を目指しました。
方法に先立って、開発したものをお見せいたします。
投球動作をmotion-captureすることによって、
球質: 球の伸び(兒) + 球速
障害: 上腕骨頭病変の存在確率
を予測することができます。
そして、今度は球質と障害に関与する動作パターンをコンピュータ上で探索し、病変を防ぎつつ球の「伸び」を最大もしくは最小にする投球動作パターンを最適化手法を用いて求めました。
この最小から最大に向かう動作パターンの変化は、この球の「伸び」に密接に関連しますので、この動作パターンの変化を現場の指導の意識づけに活用できると期待されます。
我々はこの投球動作パターンを3D動画で閲覧できるようにしました。
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対象は無症状の社会人野球選手です。
投球動作のmotion captureを行い、全身の関節角度・球速・回転数・回転軸・肩関節内の接触力からなるデータベースを構築しました。
解析のアウトラインを示します。
まず、データベースの情報を主成分分析しまして、データベース内のパターン(主成分)を統計学的に分類し、数少ない変数に集約していきました。
この主成分分析を行うと、各試技のデータを主成分得点という数値で表すことができるようになります。
そして、データベースと主成分得点は主成分負荷量行列を介して、双方向性に計算できるようになります。
すると、主成分得点をいろいろと操作することにより、簡単に新しいデータが作れるようになります。そして、そのときの投球動作における球質や障害を予測することができるようになるのです。
つぎにExcelのソルバー機能を用いて最適化計算を行っていきました。
コンピュータに主成分得点を片端から操作させて、目的関数が最大もしくは最小となる主成分得点を探索します。
そして、求められた主成分得点を主成分負荷量行列を通して、投球動作・球質・障害データに変換します。
今回は、伸びのあるボールを投げたいということを目的として、目的関数を
「球の伸び(兒)→最大(最小)」
に設定しました。
その時に制約条件として、
@ 球速を下げない
A 病変の存在確率を上げない
という条件を加えて最適化計算を行いました。
最適化計算にかかる時間は数秒から長くても1分くらいで終わります。
病変を防ぎつつ球の伸びを最大(最小)にする投球動作をコンピュータ上で探索した例を示します。
右上は球の伸びを最大にしたとき動作です。
左上は球の伸びを最小にしたとき動作です。
上記の動画ボタンをクリックして、動画を見てください。
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