Achievement 2010
無症候期の肩MRI所見から 投球肩障害の発症を予測できるか?
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背景と目的

  


投球障害肩の予防を考える上で重要なことは発症前の肩関節の状態を知ることだと思います。
通常の医療機関では選手は発症した後に受診するため、どうしても発症に対して後ろ向き研究になってしまうことが多いです。
一方、筑波大学はMRIや動作分析システムがスポーツ現場に設置されているため、発症に対して前向きに研究することに適した施設です。。
前向き研究では、後ろ向き研究と比べ、高いエビデンスレベルを獲得できます。



前項では、大学野球選手の投球肩には無症候期からMRI上さまざまな所見が認められることを述べました。その所見を細かく分類すると以上のような所見でした。
しかし、これらの所見はいずれも無症候期の所見ですから、この中でどれが発症に関与する有害な病変で、どの所見が適応現象といえる所見なのかはこの段階ではわかりません。

この中で、どれが今後の発症に影響する病変なのでしょうか?
またその病変はどれほど発症に影響するのでしょうか?
このMRI所見の組み合わせから、発症を精度よく予測することはできるのでしょうか?

対象と方法



対象は大学野球選手48名です。
無症候期にMRIを行い、その後1年間選手を経時的に観察し、どの選手が発症したかを調査しました。MRI所見と発症との関連性についてはロジスティック回帰分析を用いて、危険因子のオッズ比と発症確率を求める回帰式を算出しました。


結果 


1年間で52%(25/48例)の選手が発症しました。
発症に有意に影響したMRI所見は上腕骨頭の浮腫性病変と鳥口肩峰靭帯付近の滑液包炎でした。
上腕骨頭の浮腫性病変のオッズ比は20倍。つまりこの病変がある人はない人と比べて20倍発症しやすいことを意味しています。
鳥口肩峰靭帯付近の滑液包炎のオッズ比は6.7倍。つまりこの病変がある人はない人に比べて6.7倍発症しやすいことを意味しています。



以上の結果をもとに、ロジスティック回帰モデルを用いて回帰式を算出すると以上のような数式になりました。
もし、MRI撮影し、この数式を用いると今後1年間の投球障害肩の発症確率を予測することが可能です。
この回帰式を用いてすべての選手の発症確率を算出し、そのカットオフ値を50%に設定し、50%未満を発症なし、50%以上を発症ありとして、実際の発症データーとの適合性を調べるとその感度は87%、特異度は72%、正診率は82%でした。


結論




上腕骨頭病変や肩峰下滑液包炎は投球障害肩の発症に対する危険因子だと考えられ、ひょっとするとこれらは前駆病変かもしれません。
上腕骨頭病変はインターナルインピンジメント、肩峰下滑液包炎はエクスターナルインピンジメントで生じると考えられていますから、こうした病変やメカニズムを改善するようなエクササイズや投球フォームの開発が発症を防ぐキーポイントだといえます。



また、無症候期にMRIを撮影し、今回の回帰式を用いると今後の1年間の発症確率を予測することが可能です。
天気予報の降水確率のように近未来の発症確率を予測できるため、選手は早期に予防手段を講ずることが可能になります。

  



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