コーチや選手のために
メディカルチェック法   〜ときどき実践編〜
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一次予防の考え方




 メディカルチェックは通常障害を早期発見するために行うものですが、もう一つの目的として、障害予防という考え方もできます。つまり、まだ障害が起きていない健常状態でその選手が抱える危険因子の有無をチェックし、その危険因子をあらかじめ除去することによって、障害を未然に防いでしまおうというものです。こうした考え方を一次予防と言います。
 ここでは、一次予防に使える簡単なメディカルチェックの方法を紹介します。
これらの手技は毎日行う必要はないですが、ときどき(数週間に一度くらい)チェックして、障害を予防しましょう。




Combined Abduction Test




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手技:選手を仰臥位にしてその脇に立ち、片手で選手の肩甲骨外縁が回旋してくるのを押さえながら、もう片方の手で選手の上肢を外転します。外転した上腕部と選手の耳までの距離を目視します。両上肢とも検査を行い、左右差がある場合や疼痛が誘発される場合を陽性とします。

解釈:上腕三頭筋から広背筋、後下方関節包などの肩甲部後方から体幹側方の組織にタイトネスがあると陽性になります。タイトネスは組織の損傷や疲労を示していることが多く、障害の進行の増悪因子です。障害の比較的早期に検出されることが多いです。左右差が大きい選手は今後投球障害肩を発症しやすく、あらかじめ柔軟性を獲得しておく必要があります。


Horizontal flexion test 



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手技:選手を仰臥位にしてその脇に立ち、片手で選手の肩甲骨外縁が回旋してくるのを押さえながら、もう片方の手で選手の上肢を水平内転します。水平内転した拳とベッドまでの距離を目視します。両上肢とも検査を行い、左右差がある場合や疼痛が誘発される場合を陽性とします。

解釈:棘下筋や小円筋、僧帽筋や後方関節包などの肩甲部後方の組織にタイトネスがあると陽性になります。タイトネスは組織の損傷や疲労を示していることが多く、障害の進行の増悪因子です。障害の比較的早期に検出されることが多いです。左右差が大きい選手は今後投球障害肩を発症しやすく、あらかじめ柔軟性を獲得しておく必要があります。


Straight Leg Raising (SLR) 




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手技:選手を仰臥位にし、片足ずつ膝が曲がらないようにして挙上する。床面と挙上した脚の角度を測定する。この検査を両脚に行います。


解釈:この距離は体幹後方部から臀部、大腿後面の柔軟性やタイトネスを反映します。角度が小さい選手または角度の左右差が大きい選手は今後投球障害や腰部障害を発症しやすく、あらかじめ柔軟性を獲得しておく必要があります。


股関節内旋角度




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手技:選手を仰臥位にし、股関節と膝関節をそれぞれ90度屈曲した状態で、股関節を内旋します。体幹軸と下腿軸のなす角度を測定します。この検査を片脚ずつ行い、両脚に行います。

解釈:この角度は股関節の内旋における柔軟性やタイトネスを反映します。角度が小さい選手または角度の左右差が大きい選手は今後投球障害や腰部障害を発症しやすく、あらかじめ柔軟性を獲得しておく必要があります。


Heel Buttock Distance 



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手技:選手を腹臥位にし、片手で選手の臀部が浮かないように押さえながら、選手の片膝を屈曲し、臀部と踵との距離を測定します。


解釈:この距離は股関節から大腿前面の柔軟性やタイトネスを反映します。距離が大きいや左右差がある選手は今後投球障害や腰部障害を発症しやすく、あらかじめ柔軟性を獲得しておく必要があります。


Floor Finger Distance (FFD)




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手技:立位の状態から股関節を起点にできるかぎり前屈します。膝がまがらないように注意します。指先と床までの距離を測定します。

解釈:この距離は体幹後方部から臀部、大腿後面の柔軟性やタイトネスを反映します。距離が大きい選手は今後投球障害や腰部障害を発症しやすく、あらかじめ柔軟性を獲得しておく必要があります。


肩甲上腕リズム




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手技:立位で両上肢下垂位の状態でスタートし、ゆっくりと両上肢を対称的に前額面上で180°外転させ(約5秒間)、その後下垂位までゆっくり内転させます(約5秒間)。その時の両側の肩甲骨の上方・下方回旋を観察してその左右差を調べます。左右対称に上方回旋および下方回旋する場合を正常、上肢外転開始時もしくは上肢内転終了時に非投球側に比べ投球側が下方回旋する場合を異常とします。

解釈:肩甲骨の固定性と可動性は肩甲上腕関節を安定させ、インピンジメント(衝突)の緩衝作用があると言われています。これは、力学的ストレスを回避する機構のひとつであり、異常になった場合はこの機構が障害されていることが考えられ。異常の選手は今後投球障害肩を発症しやすく、あらかじめ肩甲骨の固定性と可動性を改善しておく必要があります。

 以上のメディカルチェックは練習すれば練習するだけ上手になり、だれもが習得できる手技です。多くの人がこの手技を習得することで、障害の予防が期待されます。



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