コーチや選手のために
メディカルチェック法   〜理論編〜
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野球の3大障害部位



 高校野球以上の野球選手において、障害が多く発生する部位は投球肩、腰部、投球肘です。特に肩においては約半数の選手が痛みを経験します。
これらの部位には予防策早期発見・早期治療が重要です。ここでは投球肩に焦点をあてながらメディカルチェックの概略について説明します。


メディカルチェックはなぜ必要なの?






多くの選手はそのスポーツで勝利したい、上手になりたい、楽しみたいなどの目的を持って練習を行います。でも、一旦障害が発生してしまうとそれを治癒させるためにはどうしても安静期間が必要です。したがって、障害が発生すると上達するための練習時間が制限されることになり、本来の目的から外れてしまいます。さらに障害が発生したにもかかわらず練習を無理に続ければ病態は悪化し、治癒に必要な安静期間はさらに延長して、パフォーマンスの向上しない期間が増えてしまいます。
 一方、障害を早期に発見できれば、治癒に必要な安静期間はごくわずかで済み上達するための練習時間は増加し、勝利への道筋をつくることにつながります。
メディカルチェックは障害を早期に発見し、病態を進行させないようにするために行うのです。それによって上達するための練習時間を確保でき、パフォーマンスの向上につながります。


メディカルチェックに必要な知識(オーバーユース)





 ある選手に障害が発生するか否かは障害を引き起こす攻撃因子と障害を防止する防御因子のバランスで決まります。障害を引き起こす攻撃因子は力学的ストレスと練習量であり、防御因子は休息時間やその個人の治癒能力、力学的ストレスを回避する機構が挙げられます。このバランスが崩れた時に障害が発生し、このバランスが崩れた状態をオーバーユースと言います。


メディカルチェックに必要な知識(解剖と病態)



野球の投球のように上肢を挙上した状態で回旋を伴う動作では障害が生じやすくなります。この動作では肩甲部の力学的ストレスが大きく、さらに繰り返し(練習量)が多くなる組織の損傷と炎症を引き起こし、オーバーユースの状態になると肩甲部に疼痛が生じます。

それでは、どのような組織にどのような力学的ストレスが加わるのでしょうか?



上記の図は肩甲帯の一般的な解剖図を載せています。
投球動作では非常に多くの組織に損傷が生じます。組織名でいうと、筋肉、腱、関節唇、滑液包、靭帯、関節包が挙げられます。このなかで、筋肉や滑液包は安静にするだけで回復してくることが多いですが、腱、関節唇、靭帯、関節包は安静にしても回復しにくい組織であり、こうした組織の損傷を早期に発見し、障害の進行を防いでいくことがとても重要です。それでは次にこうした組織にどのような力学的ストレスが加わるかについて述べていきます。

 




肩甲部の障害を引き起こす病態は非常に多く報告されていますが、ここでは特に重要な2つの病態を説明します。ひとつはインターナルインピンジメント、もう一つはエクスターナルインピンジメントです。エクスターナルインピンジメントは肩甲上腕関節外で、肩峰と上腕骨頭の間に滑液包と腱板が挟まれて衝突する現象をいいます。エクスターナルは関節外を、インピンジメントは衝突を意味します。投球動作のコッキングフェーズでこのような現象が起き、このインピンジメント(衝突)という力学的ストレスが繰り返しかかることにより、当該組織の損傷と炎症を引き起こし、肩甲部に疼痛が生じるのです。

 メディカルチェックではこの病態と同様の力学的ストレスを与えることによって疼痛を再現し、障害を早期に発見します。




肩甲部の障害を引き起こすもうひとつの重要な病態はインターナルインピンジメントです。インターナルインピンジメントとは肩甲上腕関節内で上腕骨頭と肩甲骨(関節窩)の間に関節唇と腱板が挟まれて衝突する現象をいいます。インターナルは関節内を、インピンジメントは衝突を意味します。

投球動作の最大外旋時ではこのような現象が起き、このインピンジメント(衝突)という力学的ストレスが繰り返しかかることにより、当該組織の損傷と炎症を引き起こし、肩甲部に疼痛が生じるのです。

メディカルチェックではこの病態と同様の力学的ストレスを与えることによって疼痛を再現し、障害を早期に発見します。

 それでは効率的で的確なメディカルチェックを行うためには具体的に問診で何を聞いたらよいのでしょうか?また理学検査は何を調べたらよいのでしょうか?
次の章でそれを動画を用いて解説します。



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