コーチや選手のために
メディカルチェック法   〜実践編〜
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メディカルチェックを行う上で必要なものは何でしょうか?
今までに知られているメディカルチェックの手法を片っ端からすべて行っていけばよいのでしょうか?そんなことをしたら練習はメディカルチェックだけで終わってしまいます。
パフォーマンス向上のための練習時間を確保するためにも効率的で必要十分なメディカルチェックをしていくことが重要です。
そのためには
問診で何を聞いたらよいのでしょうか?
理学検査は何を行えばよいのでしょうか?

問診で聞くべきこと




 まず、今回が選手とはじめて接する場合には以上のことを聞いて選手情報のアウトラインをつかんでいきましょう。ほかに聞くことは多くあるかとは思いますが、以上の3点を聞くだけで今後の発症について精度よく予測できます。
 投手が発症しやすいことは周知ですが、捕手も同様に発症しやすいことを知っておいてください。
 既往歴があるということはすでに肩周りの組織に損傷を受けたことがあることを意味し、それが十分に治癒していない可能性を秘めています。
 練習時間と休息とのバランスがとれていないことはオーバーユースの可能性を考えます。


次に行うべき理学検査について述べていきます。

まずはこの4つの手技を行おう。



 毎日のメディカルチェックで行うべき項目は以上の4つです。毎日、練習前か後に定期的に行っていきましょう。慣れれば1分以内にチェックを終えることができます。
 大学野球選手を対象とした調査では投球障害肩を発症する1か月前に上記の所見が陽性になりやすいことが分かっています。つまり、上記のメディカルチェックを行うことは障害の前兆をつかんでいること同義です。
 上記のメディカルチェックで陽性になった場合は近未来に発症しやすいことを意味していますから、早めに予防処置をとっていくことが重要です。
 逆にこれらテストで陽性に出ない場合は近未来に発症する可能性が少ないことを意味していますから、思い切って練習をしていきましょう。
 それでは理学検査の方法について1つ1つ述べていきます。
Hawkins test




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手技:選手の後ろ脇に立ち、片手で選手の肩峰部を押さえながら、もう片方の手で選手の肩と肘を90度屈曲した状態で、肩を他動的に内旋させます。疼痛が誘発された場合や両側で明らかな差があるときに陽性とします。

解釈:鳥口肩峰アーチの前方部にエクスターナルインピンジメントによる損傷や炎症部位があると考えられます。また肩甲部の後方組織にタイトネスがあると陽性になることがあります。


Hyper external rotation test



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手技:選手の後ろ脇に立ち、片手で選手の肩峰部を押さえながら、もう片方の手で選手の肩を90度外転し、肘を90度屈曲した状態で他動的に肩の外旋を強制します。疼痛が誘発された場合に陽性とします。

解釈: 肩甲上腕関節にインターナルインピンジメントによる損傷や炎症部位があると考えられます。

Active compression test




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手技:選手の後ろ脇に立ち、選手の肩を90度屈曲し15度水平内転した状態で、肘は伸展し母指を下にむけた状態に保持させます。検者は片手を選手の肘部におき、下に向けて力を入れます。疼痛が誘発された場合に陽性とします。

解釈:棘下筋や上方関節唇に損傷や炎症が疑われます。



得られた所見をどのように解釈するか






陽性となった所見の数が多ければ多いほど障害は進行しているといえます。進行すればするほど治癒に必要な安静期間は増え、その分上達するための練習期間は少なくなってしまいます。逆に、できるかぎり早期に障害を発見しいち早く対策をとることで、治癒に必要な安静期間は減少し、その分上達するための練習期間は増加します。


 
 患部を治癒させるには一定期間の患部の安静が必要です。では、どのくらいの安静期間が必要なのでしょうか?それは選手ごとに治癒能力が異なるため治癒までの期間は一定ではありません。よって、以上のメディカルチェックを経時的に繰り返しながら陽性所見が減少していくのを確認し、それに合わせた復帰メニューをオーダーメイドに作っていくことが大切です。

患部を安静にしていると必ず起こってくる現象が、選手の焦りと不安です。ゆえに、全般的な安静を指示するのではなく下肢や体幹重視の復帰メニューを作り、現在はその部位の強化期間であることを伝えていくことが、選手の焦りと不安の軽減につながります。

 もし筋のタイトネスがあればこの機会に重点的にストレッチを行います。またインピンジメントが原因ならインナーマッスルのトレーニングを行うとともに、肩甲骨の可動性を改善しインピンジメントが生じにくくなるようなエクササイズを奨励します。単に安静を指示するだけではなく、こうした前向きな指示を行うことで、再発防止につながり、選手の精神状態の安定化にもつながります。

 以上のメディカルチェックは練習すれば練習するだけ上手になり、だれもが習得できる手技です。多くの人がこの手技を習得することで、障害の進行の防止が期待されます。




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