Achievement 2011
Does the pitching motion with “hijisagari”  tend to form the humeral head abnormality?
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Back ground




 この研究はコンピュータシミュレーションに基づいており、生体での検証はまだ十分とは言えません。。しかし、投球障害は生体での検証が難しいからこそ、我々はコンピューターシミュレーションを用いました。



 我々は48名の大学野球選手を対象に無症候期のMRIを用いたフィールド調査を行いました。すると、上腕骨頭病変は無症候期にも関わらず半数以上の選手に認めました。こうしたMRI検査した選手を前向きに追跡調査すると、こうした病変を認めた選手はその後に発症しやすく、こうした病変は発症に対する危険因子と考えられました。
 それではどのような投球動作だとこうした病変が生じてくるのでしょうか?

 

 我々は2010年に投球動作から病変を予測するシステムを開発しました。このシステムでは投球動作をmotion captureしたデータを動力学解析とロジスティック回帰分析することにより上腕骨頭病変の存在確率を予測することができます。MRIを用いて妥当性を評価したところ、その正診率は約80%でした。

 
 
 このシステムについて、もう少し詳細に述べていきます。
motion captureしたデータをSIMM(nac)の筋骨格モデルを用いて動力学解析を行い、肩甲上腕関節にはたらく関節間力を算出しました。この関節間力を求心成分とせん断成分に分解しました。そして、関節間力比を以下のように定義しました。
関節間力比=(せん断成分/求心成分)x100
この定義を用いて、すべての選手の関節間力比を算出しました。
次に、MRI上上腕骨頭病変のある群(Lesion(+))と上腕骨頭病変のない群(Lesion(-))にわけ、それぞれにおいて関節間力比の平均と標準偏差を求め、2群間で平均の差の検定(独立したサンプルのt検定)を行いました。
 すると投球加速相において、MRI上上腕骨頭病変のある群はない群に比べ、有意に関節間力比は高くなりました。このことは、上腕骨頭病変のある群は投球加速相でせん断力が求心力に比べ非常に大きくなったことを意味しています。
 したがって、この関節間力比は上腕骨頭病変に関係があり、医学的に考えてもこの関節間力比は病変形成の危険因子と考えられました。



 つぎに、関節間力比の加速相における時間積分値を全選手について求めました。この時間積分値は物理学的に考えれば、力積に近いと考えられます。この各選手の時間積分値を独立変数に、MRI上の上腕骨頭病変の有無を従属変数にして単変量ロジスティック回帰分析を行ったところ、そのオッズ比は1.78(p<0.05)でした。このことは、時間積分値が10%増加するごとに、病変のできやすさは1.78倍ずつ増えていくことを意味しています。
 このオッズ比を用いて、ロジスティック回帰式を算出しました。この回帰式を用いることで投球動作から上腕骨頭病変の存在確率を予測することが可能です。
 分割表を用いてこの回帰式の精度を評価したところ、その正診率は78%でした。
 

Purpose



 ところで、最近「肘下がり」の投球動作は一般的によくないといわれていますが、「肘下がり」の投球動作だと肩にとっていったいどのような悪影響があるのでしょうか?
 本研究の目的は上述したシステムを用いて、「肘下がり」の投球動作では上腕骨頭病変ができやすくなるかどうかについて検討することとしました。

Methods 





対象は無症状の大学野球選手13名です。
投球動作のmotion-captureを施行しました。



 まず、コンピューター上で「肘下がり」の投球動作を作成しました。「肘下がり」は体幹からみて肩の外転角度が小さいと定義しました。Foot contactからBall releaseまでの外転角度をcontrolから20度一律に減少させた投球動作を作成しました。その投球動作を動画で示します。下記のアイコンをクリックしてみてください。
この作業を全被験者に行いました。
動画 control動画 肘下がり


 あとは前述した同様の方法で、全被験者の投球動作から肩甲上腕関節にはたらく関節間力比を算出しました。その後に投球加速相における肩関節間力比の時間積分値を算出し、この時間積分値を上腕骨頭病変の存在確率を求める回帰式に入力しました


Results




 上のグラフはcontrol群と肘下がり群の関節間力比の平均と標準偏差を示しています
投球加速相において、肘下がり群の肩関節間力比が大きく増加しています。つまり、肘下がり群では投球加速相において、せん断方向の力が求心方向の力に比べて非常に大きくなったことを意味しています。





 投球加速相における肩関節間力比の時間積分値を算出しました。この時間積分値は上腕骨頭病変の危険因子です。control群と肘下がり群の2群間で平均の差について対応のあるt検定を行ったところ、肘下がり群では有意に(p<0.01)時間積分値は大きくなりました。
 さらに、この時間積分値を前述したロジスティック回帰式に入力し、上腕骨頭病変の存在確率を求めました。control群と肘下がり群の2群間で平均の差について対応のあるt検定を行ったところ、肘下がり群では有意に(p<0.01)上腕骨頭病変の存在確率が大きくなりました。
 肘下がりの投球動作はcontrolと比較して、平均で25%(p<0.01、95%CI:15~33%)上腕骨頭病変ができやすくなるという結果でした。

Conclusion




 この研究はコンピュータシミュレーションの基づいた結果ですが、
 「肘下がり」の投球動作では上腕骨頭病変ができやすくなるかもしれません。そして、
 「肘下がり」の投球動作では投球障害肩が発症しやすくなるかもしれません。

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