Achievement 2011
投球障害肩の発症予測システム   〜開発とその短期効果〜
                                         目次へホーム
背景


投球障害肩が発症すると選手は投げるたびに肩が痛くなり、思い切り投げられなくなります。チームも弱体化するため、選手にとってもスタッフにとってもつらい思いをすることになります。
現在日本では約15万人以上の選手が投球障害肩に苦しんでいると推測されています。



投球障害肩はいままで発症後の治療に重きを置かれていましたが、今後は発症前の予防が大切になってきます。
その主原因や予防手段もだんだんと解明され、普及してきました。
しかし、現場の声はこうです。
「勝ちたいからたくさん練習したいんだよね」といって投球制限など守ってくれません。
「予防エクササイズはつまらないし、めんどくさい」といって予防エクササイズの実施率も低いのが現状です。


アスリートの心理や本質は「勝ちたい」「うまくなりたい」といったことですが、こうしたものは大切にしていきたいと思います。そして、うまくなるための練習時間も十分に得られなければなりません。
しかし、アスリートには油断もあって、
「投球障害?まさか自分は大丈夫だろう」
といって痛くなってはじめて気づき、そして後悔する。
こんな選手が非常に多いです。
よって予防に最も大切なことは
発症する危険性の高い選手を上手に検出し、発症する危険性を気づかせてあげることだと思います。



そこで我々は、2009年に発症予測システムを開発しました。このシステムではあたかも天気予報の降水確率のように投球障害肩の発症確率を推定し、その選手の弱点をレーダーチャートで指摘することができます。
したがって、このシステムでは発症予測シートを選手一人一人に配布でき、選手やスタッフにあらかじめ発症危険性を警告することができ、それにより発症を予防するためのモチベーションが高まり、発症危険性の高い選手に早期に予防手段を講ずることが可能になります。
発症確率を選手に伝えたあと、
「この弱点をこのように克服すると発症確率はこのくらい下がるよ」
と教えてあげます。


目的




本研究の目的は、上記の発症予測システムの短期的な効果を検証することです。

対象と方法




 研究デザインとしてははじめの1年目に発症予測システムを開発し、次年度のチームにこのシステムを導入し、最後にこのシステムの評価を行いました。
 対象者は大学野球選手です。
 評価項目は2つあり、
ひとつはアンケートで「予防意識が向上したか?」を調査しました。。
もう一つは2週間毎の問診と理学所見で有病率が低下したかどうかを調べました。


結果 結論




このシステムを導入後 96%の選手の「投球障害肩を予防しよう」とする意識が
向上しました。
多くの選手に自身の危険因子を取り除くためのエクササイズに取り組む姿勢が見られました。
システム導入後1年間で平均有病率は4%減少しました。

今後の展望



今後はより精度を上げ、より普遍的な回帰式を生みだしたいと思っています。
そのためには経時的なデータ集積が必要です。
新チームが発足したらすぐにメディカルチェックを行います。
メディカルチェックを行い、回帰式を用いると発症確率を推定することが可能です。
ここで選手に発症危険性を警告します。
すると選手の予防意識は向上します。
つぎにレーダーチャートを用いて、その選手の弱点を把握してもらいます。
すると予防意識が高まった状態で、予防エクササイズができます。
発症調査は常に続けていきます。すると本当に有病率が低下したかどうかを確認することができます。
チームの終わりにはメディカルチェックの情報と発症調査の情報を再度ロジスティック回帰分析します。
そしてこの結果は次のチームに生きることになります。



より精度を上げ、普遍的にしていく方法に空間的データ集積という方法もあります。
今回は大学野球チームのデータを用いましたが、たとえば高校生のデーター、中学生のデータ・・・とさまざまなチームのデータを集積して分析するシステムを構築します。
すると普遍的な発症予測シートや予防方法を提示することが可能になります。
こうしたことをインターネットを活用したシステム構築することにより、有病率の低下は空間的に広がり、全国レベルの障害予防に発達していく可能性があります。


最後に・・・
本手法は投球障害肩のみならず、他のスポーツ障害でも応用可能であり、汎用性が高い手法だと考えられます。

目次へ    ホーム