研究のアウトライン 
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研究環境

  

投球障害肩の予防を考える上で重要なことは発症前の肩関節の状態を知ることだと思います。
通常の医療機関では選手は発症した後に受診するため、どうしても発症に対して後ろ向き研究になってしまうことが多いです。
一方、筑波大学ではMRIや動作分析システムがスポーツ現場に設置されているため、発症に対して前向きに研究しやすい環境を有しています。
前向き研究は、後ろ向き研究と比べ、高いエビデンスレベルを獲得できます。


研究デザイン

  

この研究では発症、病態、力学モデル、投球動作の4つの柱を考えています。
それぞれの柱を数理モデルで適合させています。
数理モデルは主にロジスティック回帰分析を用いています。
この数理モデルの適合性がよくなると投球動作から近未来の発症を予測したり、肩関節内の病変を予測することが可能になります。

研究意義




本研究の位置づけそして役割は、投球障害肩という医学的知見と数理パラメーターというバイオメカニクス的知見をマッチングさせることです。
こうしたことがうまくいくと投球障害肩の動作上の危険因子を同定することが可能になります。
あとはこの危険因子を減らすような投球フォームを探求するコンピューターシミュレーションが構築されれば、最適な投球フォームを開発することができるようになります。
シミュレーションは主成分分析と回帰分析を組み合わせることにより、比較的容易に作成することができます。
こうして得られた知見はテーラーメイドなコーチングに生きると考えられます。
  


ロジスティック回帰分析




本研究ではロジスティック回帰分析をよく用いています。
この分析ではオッズ比と回帰式が算出されます。
オッズ比とは独立変数が従属変数に対してどの程度独立した影響を及ぼすかという影響の強さのことです。例えば、オッズ比が「5」といった場合は独立変数が「1」増えるごとにその事象が発生する確率が5倍になることを意味します。
またロジスティック回帰式が算出されると、その事象が発生する確率を予測することが可能になります。
つまり、前向き研究と組み合わせることによって、さまざまな事象を予測することが可能になるのです。


シミュレーションの構築




 この研究ではシミュレーションを構築するのに主成分分析を応用しました。
 まず、大量のMotion-Captureデータを主成分分析し、投球動作のパターン(主成分)を統計学的に探索し分類しました。主成分分析をすることで、個々の投球動作を数値(主成分得点)で表すことができるようになります。そして、投球動作データと主成分得点は主成分負荷行列を介して数学的に1対1の関係にありますから、任意の投球動作から主成分得点を求めることもできますし、主成分得点を操作することで簡単に新しい投球動作を作り出すこともできます。この主成分分析の特徴を応用することでシミュレーションの根幹部を作り出しました。
 個々の選手の投球動作パターンと病変との関連性については、累積ロジスティック回帰分析を行い、個々の選手の投球動作パターンと球速との関連性については、重回帰分析を行い、それぞれにおいて病変と球速を予測する回帰式を算出しました。


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